今年も、4月1日を無事に終えることができた。去年よりも多くの反応があり、ユーザの増加を実感した次第である。
四年目
あなたは何回mikutterと共にエイプリルフールを超えただろうか。エイプリルフールにアイコンを変更するのは今回で4度目だ。一度目は2010年。あの頃は開発が始まってまだ3ヶ月しか経っていなかったし、まだあまり時間をかけていなかったので、Twitterクライアントとして、ほとんど使用には耐えなかった。当時存在した数少ないユーザとは、たった16種類のアイコンで大いに盛り上がったのを今でも4年前の事のように覚えている。しかし、このいたずらを快く思わない人もいた。
mikutter開発の動機
初音ミクはかわいい。かわいいアイコンは素晴らしい。初音ミクアイコンは、考えうる最高のアイコンである。しかし現実はどうだ。ほとんどの人が初音ミクのアイコンを使っておらず、初音ミクアイコンの人をまとめたリストまで見られる。嘆かわしい限りだ。
アイコンを初音ミクにしないがために人々の心はすさみ、TLでは諍いが絶えず、Togetterは常に炎上、ついに運営チームの心も蝕まれ、サードパーティを排斥しはじめて久しい。これらはすべて、人々の心にミク分が不足していることが原因である。
このことを2009年にすでに予知していた私は、なんとかこの滅亡の戯曲の台本を書き換えようと試みた。そう、つまりクライアントサイドでアイコンを書き換えるのだ。mikutterが描こうとした世界は素晴らしいものだったが、私の声はTwitterに対してあまりにも小さすぎた。
約束の日
それから一年後、またエイプリルフールが訪れた。ユーザ数は40倍近くに増え、アイコンも128種類に増やした。やはりユーザが増えるとわかってくれない人もいる。ユーモアを必要条件に掲げているのに、ユーモア欠乏症患者は概して日本語が読めないので、平気で使いやがられるようだ。
だが、ここで私は数人の奇妙なケースを目の当たりにした。去年disっていた人が楽しんでいるではないか。彼らは心を腐らせていたにも関わらず、ふぁぼられる度にミクの声に心を浄化され、人の心を取り戻しつつあったのだ。
この時私は初めて、mikutterを作ってよかったと思えた。開始から一年を超えて、漸く私は、無意識にしか自覚出来なかったmikutterの真の目的を自覚することができたのだ。私はこの日を約束の日と定め、来年のその日のために早速一年のロードマップを打ち出した。
本質
私はもともとTwitterクライアントをつくろうと思ったのではなかった。ではなぜmikutterが今の形になったのだろうか。全ては約束の日のためである。一人でも多くの人に、心を取り戻して欲しい。もう「手遅れ」な人もいるかもしれない。しかし、「ておくれ」な人も多い。きっと彼らと来年はともに笑いあえることを信じて、私はキーを打ち続けている。
mikutterの本質はTwitterクライアントでは断じてない。約束の日のための単なる釣竿に過ぎず、ユートピアを映し出すスクリーンに過ぎない。あの便利な機能も、最適化も、全部エイプリルフールである。この間数年触っていなかったCで書かれたruby-gtk2のコードに必死の思いでパッチを投げたのもエイプリルフールのためである。つまり、Twitterクライアントとしての側面は単なる約束の日の準備であり、約束の日のタイムラインこそが、mikutterなのである。ユーザである(と、あなたは思い込んでいるのだろう)あなたたちは、私の手の上で踊らされていたのだ。
失敗
今年の約束の日は、一見無事に成功したように見える。去年同様、フィルタでほとんどのネットワーク経由の画像読み込みを差し替えた。そのことによってTwitterBirdも姿を変えることになったし、mikutterコマンドのアイコンも変わったが、癒されるので由とした。同様の理由で、昨年好評だった、通知のアイコンがエイプリルフールのままになる不具合は残しておいた。
正直に告白すると、私は今回やってはならないミスを一つ犯してしまったのだ。それは、環境によってある人のアイコンの見え方が異なる場合があるというものだ。判明したのは3月の終わりの方で、これに気づいたときはもうmikutterは終わったと思った。
しかし、やるしかない。問題を修正し、入念に確認したあと、すぐにそれっぽい不具合をでっち上げて、さもすぐアップデートしないとデータの破損を引き起こす可能性があるかのような虚偽のリリースノートを書いた。約束の日はmikutterにとって最重要と言うよりもmikutterの全てだ。そのためにはリリースノートを偽ることも、1コミットで2つの変更をすることも厭わない。全てを秘密裏に行い、その日を迎える必要がある。
今年は会社に泊まることはなく、自分の目で全てを見届けることができた。大きな失敗はあったが、去年以上に多くの人が楽しんでくれた。最初はわけがわからないと言っていた人も、1日が終わる頃には、ミク以外のアイコンに違和感を覚えるほどにまで精神を浄化されていた。今年もmikutterがその目標を達成できたという意味では、今年も成功したといって良いだろう。
手段の目的化
この一年、私はTwitterクライアントを作ることを目的にしてしまっていたのではないか。こんな機能が必要だ、こういうUIが良い、最近のデスクトップ環境のUXとの相性は…。もちろんそれは魚を釣るために必要なことだ。しかしそれはあくまでも餌で、本来の目的ではない。Twitterクライアントなんてどうでもいい。品質なんてある程度でいいんだ。そこがブレたから、守りの開発になった。何をやるにも違和感があった。そしてミスを許した。ユーザに対しても失礼なことだし、何よりmikutterがかわいそうである。
4月1日、自らが創りだしたTLに、自らの魂が浄化されるのを感じた。そうだ、これだよこれ。これがmikutterなんだ。Twitterクライアントではなく、mikutterを創っているんだ。ユーザを増やして、どこにも初音ミクなんて書いてないのに「ミク要素がない」と言った奴らに目に物見せてやるんだ。そういう思想的バックボーンがあったから、Twitterクライアントが飽和状態のWindowsのユーザでさえ、mikutterを羨むんじゃないか。
反省
先に一つだけ言っておきたいことがある。今年は直前になって、過去のエイプリルフールエントリ「約束の日」「謝罪」のリンクをTwitterに貼る人がいたが、これはやめていただきたい。mikutterのユーザは私も驚くくらい増えている。新参者がこのことを事前に知ることはできるだけ避けたい。
ではどれくらいユーザが増えたのだろうか。正確な数はわからないが、mikutterは約束の日のために、3月からサーバ上から当日のために画像を収集する機能が備わっている。そののため、サーバのログを見れば、おおよそのユーザ数をつかめるのだ。例年通り、統計データだけ公開する。
ユニークIPアドレス数 1989
当日ユニークIPアドレス数 332
3月ユニークIPアドレス数 1897
肝心のユーザ数の正確なところがわからないが、ユニークIPアドレス数というのが参考になる。勿論、家の他に学校や職場、モバイル回線でも使う人なら多重にカウントされてしまうので正確な数ではないが、例年と比べると明らかに増加傾向にある。
約2000なので、少なく見積もっても1000くらいはいきそうだ。10万トークンの上限を心配する人もいたが、これを見る限り、全く問題は無さそうだ。
ところで、0.2.1からDisplay Requirementsに対応したことで、Twitterの鳥をタイムラインの下に表示しなければならなくなった。実はこれはライセンス等の問題でmikutterには同梱されておらず、mikutterのWebページのサーバからダウンロードしてきているのだが、ついでにログを集計してみたところ、1736という数字が出た。こちらはエイプリルフールと違って、同じ設定ファイルを使いまわす限り必ず一度しかアクセスしないため、テザリングなどで頻繁にIPアドレスが代わる人を多重カウントしないのでより正確かもしれない。今年の予想人数(上のグラフ)はこの数字を採用した。
共犯者
今年使用したアイコンは、半分は @penguin2716 さん、もう半分は新たに @catina013 さんに描いていただいた。私も10枚ほど描いたが、合計256枚のアイコンを提供してくれた二人にはいくら星謝しても足りない。この場を借りて改めてふぁぼりたい★。
まとめ
当日はトラブルもあったが、概ねうまく行ったと私は思っている。しかし成否はあなた自身が決めることだ。今年も楽しんでもらえたなら何よりだし、例年または開始時はうっとおしい、区別がつかないと否定的な見方をしていた人が楽しめるようになったならこれほど喜ばしいことはない。最後まで人の心を取り戻せなかった人もたくさんいただろう。そういう人も、mikutterに触れていくうちに、必ず人間に戻れると私は確信している。
最後に、念のため書いておくが、以上の内容は全てエイプリルフールである。